ベンチャー企業が上場を目指す場合、上場の準備にあたって膨大なタスクを解決する必要があります。今回は、上場準備のスケジュールを開始から上場までを、コンパクトに解説していきたいと思います。IPO準備のスケジュールとは?はじめに、IPO準備から上場までの流れを10項目にまとめると下図の通りになります。IPOプロジェクトを発足し、社内体制・管理部門を整えて、上場申請となります。それでは、IPO準備期間や10項目の詳細について具体的に解説していきます。IPO準備期間は3年IPO準備にかかる期間は、少なくとも3年前後を要します。その理由は、監査法人による上場直前2期分の監査が必要であることや、上場に向けた体制の構築に時間がかかることが挙げられます。とくに、上場企業としての経営管理体制が確立されてから、1年間運用されていることが上場審査で確認されます。営業部門の体制が整っていたとしても、労務管理や経理会計のようなバックオフィス体制が確立されるには時間がかかります。外部から監査やコンサルを入れて、不十分な点を明らかにして、日々の業務の中で改善点を反映させて、習慣化させていくには1年以上はかかるので認識しておきましょう。最近では、監査契約を受嘱してくれる監査法人がすぐに決まらないこと(監査難民)も多いため、上場を目指すには早めに準備を始めることが重要になってきています。IPO準備の流れIPO準備では、上場申請して上場する年を申請期(N期)といいます。これを起点に1期前を「直前期(N-1期)」、2期前を「N-2期」、3期前を「N-3期」、4期前を「N-4期」と分けて考えるのが一般的です。各期の流れは下記の通りです。N-4期・N-3期IPOプロジェクトの発足が主なタスクです。監査法人からショートレビューという上場に向けた課題事項の洗い出し調査を受けて、監査契約を結びます。また、主幹事証券会社と契約します。社内でプロジェクトチームを編成し、そこで見つけたIPO課題の解消に取り組み始めます。N-2期監査が始まるため、指摘された問題点は全て解消することが必要です。そのため、このタイミングで直前期に向けて社内の管理体制や制度を整えておくことが求められます。N-1期(直前期)株式上場の実現に向けて、実際に上場する市場の申請書類を作成が必要になります。直前期では、その他上場に向けた広範囲にわたる業務を並行して行います。N期(申請期)申請期は、主幹事証券会社による引受審査を受けることから始まります。その後、上場申請を行うと、証券取引所による審査が行われます。多くの質問事項がこの審査で問われますが、迅速に回答することが求められます。同時に、会社が上場すると株式譲渡制限のない公開会社となることから定款の変更も必要です。審査に通ると上場に至ります。上場3~4期前(N-3・N-4期)上場3~4期前(N-3・N-4期)において行う内容は、以下のとおりです。1.事業計画・資本政策の策定2.監査法人・主幹事証券会社と契約3.組織体制の整備1.事業計画・資本政策の策定IPOを前提とした事業計画を策定します。事業計画では、特に売上・利益が重要になりますが、市場規模の動向や自社のシェア比率などのマクロ的な視点だけでなく、自社のビジネスモデルを明確にして、血の通った計画を目指す必要があります。ゆえに、経営リソースの制約を反映した資金・人材・設備投資計画と売上計画が整合する成長予測を数字で示します。IPOを前提とした資本政策を策定します。資本政策とは、事業計画を達成するための資金調達と株主構成の計画です。資本政策は、後から変更するのに時間と労力を要します。また、資本政策は経営権の安定に直結し、経営者にとっては最も重要な部分になるため、早い段階で資本政策を検討するのがおすすめです。資金調達は、ベンチャーキャピタル(VC)からの出資がメインになります。この段階では、株価が比較的低い状態のため、出資を受ける前に経営者が追加出資するなど、経営権の安定を考慮する必要があります。2.監査法人・主幹事証券会社と契約IPOのためには、会社の決算が適切であることを監査法人に監査してもらう必要があり、2期前〜直前期までの2期分の監査証明を要します。そのため、3期前には監査法人を選任することが必要です。一般的に、大手監査法人が証券取引所や主幹事証券会社が好まれる傾向にありますが、近年では中小監査法人と契約し上場するケースも増加しています。また、監査法人との契約前にはショートレビューと言われるIPOに向けた課題を洗い出す調査を受けることになります。上場に向かって、明らかになった課題を改善していくため、この時点で完璧な体制となっている必要はありません。主幹事証券会社は、上場の準備を進めていく上で過去の上場経験を踏まえた様々なアドバイスをしてくれます。上場3~4期前に必ず契約する必要はないですが、アドバイスをもらえるので、初期段階で主幹事証券会社を選定した方が望ましいでしょう。3.組織体制の整備小規模ベンチャーと違って、上場企業は組織として業務を行っていきます。上場企業になるためには、組織制度や内部統制制度、利益管理制度や業務管理制度などを整備して、組織として機能する体制を構築する必要があります。具体的には、法律に則った株主総会および取締役会の開催や稟議制度の構築、内部監査を行う部署の設置や社内規定などのルールの整備などが挙げられます。上場2期前(N-2期)2期前において行う内容は、以下のとおりです。4.内部監査の対応5.内部統制の対応6.決算体制を整備する7.予算統制・予実管理4.内部監査の対応IPOを目指すにあたって、組織運営や規程の遵守状況についてチェックを行う内部監査体制が相応に整備され、適切に運用されている必要があります。組織内での不正防止や牽制機能が期待されることから、実施部署から独立した内部監査室や管理部門が担当することになります。昨今のIPO審査では、企業特有のビジネスや事業リスクを勘案した内部監査の実施が要請されており、役員の利益相反取引の防止や取引先の反社チェックなどの形式的なものから、より実質的な監査まで要請される傾向にあります。5.内部統制の対応IPO準備には、内部統制報告制度(J-SOX)に対応した体制構築が必要になります。上場後は、不正会計などの防止のために、事業年度ごとに内部統制報告書を作成して公認会計士または監査法人の監査を受けて内閣総理大臣への提出が求められるためです。営業から経理の売上計上まで一連の流れを把握して内部統制の整備し、内部統制のための組織づくりや毎年の監査受け入れ対応のオペレーションの構築などが重要です。6.決算体制を整備する上場企業になるためには、会計制度への対応が必要になります。商品・顧客ごとに原価と利益を集計する制度を構築していったり、販売部門やサービス開発部門など複数の部門がある場合は、それぞれの部門別に損益計算ができるような会計制度および組織体制の構築が必要になります。また、月次で5~7営業日程度で決算締めが実施できる体制が必要になります。上場後の適時開示に対応できる体制が求められるため、決算体制は監査法人から重要視される点となります。7.予算統制・予実管理IPO準備では、翌年の予算を作成し当初予算通り予算統制を図り、月次で実績との差額を把握する体制構築が必要になります。IPO審査では、予算統制という考え方のもとに年度予算の策定を行い、その策定された予算と実績の差を適時に把握・分析する体制が整備されているかが問われるためです。具体的には以下4点となります。予算管理規程に基づく手続きやスケジュールに従い、適正に年度予算の策定、決議が行われていること市場環境およびビジネスリスク、今後の見通しなどを客観的にふまえて合理的な計画策定が行われていること月次で予算と実績を比較し、差異がある場合にはその原因を分析して説明できること予実差異解消のための改善策を検討し、すみやかに実施していること直前期(N-1期)直前期において行う内容は、以下のとおりです。8.決算開示の対応9.一の部/二の部の作成1~7.これまで対応してきた事項のアップデート8.決算開示の対応IPO準備では上場後の開示に対応にできるように開示体制を整備する必要があります。上場企業は、年度決算はもちろん四半期ごとに、金融商品取引法や有価証券上場規程等の法令や一般に公正妥当と認められた会計基準に準拠して決算情報を公表するためです。また、IPO準備の中でも、IPO審査やファイナンスのために、定められたスケジュールの中で決算開示書類を遅滞なく適切に作成し、関係者への開示及び公表を行います。決算開示書類は、法令に基づく記載事項や公開期日等のレギュレーションがある中で、企業実態を適切に示すように作成しなければなりません。また、会計基準が要請する会計処理や注記の要否の判断、これらの基礎情報の作成も必要となります。9.一の部/二の部の作成上場審査(主幹事証券審査および証券取引所審査)では、新規上場申請のための有価証券報告書(一の部)/(二の部)」の提出が必要となります。上場審査のベースとなる上場申請書類であり、百ページ以上になるケースもあるため直前期から作成が必要になります。一の部は、上場企業が開示している有価証券報告書に類似する書類です。決算情報等を記載するため財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則や企業会計基準等に従って作成する必要があります。二の部は、会社全体について広範かつ詳細に記載する企業説明書です。一の部と異なり、世間一般に開示されないため他社事例を参考にできません。基本的には、証券取引所の新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)記載要領に従いますが、詳細な記載ルールが定められていない部分が多いため、印刷会社の記載例や手引書を参考にしつつフラッシュパートナーズのような豊富な作成支援実績を有する会社に依頼するケースも見受けられます。さらに、この申請書類は印刷会社を通して印刷および製本されたものを提出する必要があるので、スケジュールには余裕を持たせることをおすすめします。1~7.これまで対応してきた事項のアップデート直前期は、これまでに準備してきた下記事項をアップデートし、監査法人や証券会社からの指摘事項を解消することで上場会社に相応しい体制にする必要があります。1.事業計画・資本政策3.組織体制、社内規定4.内部監査5.内部統制6.決算体制7.予算統制、予実管理不備がある場合、上場審査に通過しない可能性が非常に高いので可能な限り速やかに改善することが望まれます。申請期(N期)申請期(N期)において行う内容は、以下のとおりです。10.投資家への説明11.上場申請の流れ10.投資家への説明グロース市場に上場する企業には、「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示が必要です。上場後に一般投資家がビジネスモデルや市場環境、競争力の源泉、事業計画、リスク情報を理解しやすいように図やグラフを用いて視覚的な内容にすることが求められます。また、東証からの上場承認後に、ロードショーと言われる機関投資家向けに経営者が自社の魅力を説明する際の元資料にもなります。11.上場申請の流れ①主幹事証券会社による引受審査事業の成長性、内部統制やコンプライアンスの状況などを確認、信頼できる企業かどうかを審査されます。具体的には以下のような流れになります。・財務諸表・事業計画への質問・稟議書・議事録・その他各報告書へのレビュー・現地調査(実地調査)・知的財産権の調査・取引先へのヒアリング・関係会社との取引において投資家保護の観点から問題のある取引の有無・経営陣・株主・取引先に対して反社会的勢力に関わる人物の存在の有無②定款変更株式譲渡制限を外して公開会社になるため定款を変更する必要があります。定款の変更には、株主総会での特別決議が必要な点にも注意が必要です。また、取締役会の承認無しで株式譲渡を自由に行うことが可能になります。③上場申請定款を変更した後は最後の審査に向けて、新規上場申請に関する書類を証券取引所の上場審査部に提出します。株式上場予定会社から上場責任者、窓口となる事務責任者、主幹事証券会社が出席します。④証券取引所による審査上場申請が受理されると、証券取引所による上場審査が始まります。上場審査は、他の審査よりも質問事項が広範囲に渡ります。主幹事証券会社の引受審査よりも質問の内容が広いことから、想定外の質問への対応力も試されているとも言われています。一般的に、証券取引所による審査は以下のような流れで行われます。(1)上場申請時の提出書類審査に基づく書面審査(2)追加質問事項提示(3)追加質問に係る回答書の提出(4)提出書類に基づいたヒアリング(5)実地調査(6)公認会計士面談(7)監査役面談(8)社長面談(9)社長説明会(10)証券取引所内決裁⑤上場承認取引所の上場申請が終了すると、証券取引所の役員会を経て上場承認が正式に決定後、世間一般に公表されます。その後、ロードショーと言われる機関投資家向けの自社の魅力をアピールするプレゼンを行い、公表からおよそ1ヶ月後に上場を迎えることになります。また、上場日には取引所でセレモニーが行われます。メディアで見かける社長を筆頭に役員や外部取締役など関係者が一堂に集まって、鐘を鳴らします。その流れで、記念パーティーを行う企業もあります。上場準備にかかる費用上場準備には様々な費用がかかり、年間で数千万円が必要になります。1回だけ払うといった単純なものではなく、IPO担当社員の採用費は退職のたびに必要となり、上場に向けた3~4年前から監査法人・証券会社や、弁護士・税理士・会計士・コンサルタントなど様々な費用が必要です。主な費用目安は以下の通りです。ある程度の売上規模があり、継続した利益が望めないと費用の支払いだけでも難しくなります。項目費用目安備考IPO担当人材の採用費500〜1,500万円およそ上場3~4期前から必要監査法人のショートレビュー100〜500万円監査法人との契約時に必要監査法人1,200〜2,000万円/年およそ上場3期前(N-3期)から必要主幹事証券会社1,000〜2,000万円/年およそ上場3期前(N-3期)から必要IPOコンサルティング会社500〜1,500万円/年およそ上場3期前(N-3期)から必要内部統制・内部監査コンサルティング会社500〜1,500万円/年およそ上場2期前(N-2期)から必要証券印刷会社600万円/年上場時に必要登録免許税資本金組入額×1000分の7VCから出資を受けて資本金が増加するたびに必要上場審査料200~400万円上場時に必要グロース市場200万円スタンダード300万円プライム400万円新規上場費100~1,500万円上場時に必要グロース市場100万円スタンダード市場800万円プライム市場1,500万円まとめいかがでしたでしょうか。本記事では、IPO準備のスケジュール、Todoを説明しました。IPO準備は、長期間に渡って広範な作業が必要です。そのため、計画的にIPO準備に取り掛かる必要があります。具体的進め方を相談するには、プロの専門家に聞くのが一番です。フラッシュパートナーズでは多くの経験豊富な会計士が無料相談会を実施しております。ぜひ、お気軽にお問い合わせください!